リサ・ジェノヴァの同名小説を原作としている映画です。この映画で、主演のジュリアン・ムーア(Julianne Moore)が認知症で記憶と自分を失っていく主人公を演じ、女優史上初となる、アカデミー賞ほか世界主要6大映画賞の主演女優賞制覇を成し遂げました。
高名な言語学者アリス
「言語学者のアリスは、夫ジョンと3人の子どもと充実した人生を送っていました。しかし、アリスには、単語が出てこなくなる、道に迷うなどの症状が始まりました。アルツハイマー病と診断されます。アリスは同じような病気に苦しむ人々の前で講演をする事になります。」
監督は難病と闘いながら製作
感動の名場面が複数あります。よくできた映画でも、感動の名場面は1つ、多くても2つのみです。この映画は複数あります。
1つ目は、記憶を失っていく自分を取り繕うために必死な、そして時に葛藤のアリスの演技です。この葛藤の演技こそが名演技そのもので、実際の患者さんをみているようで違和感が全くありません。2つ目は、「アルツハイマー病と戦う」とした講演のスピーチ場面です。自分の気持ちをメインに据えたスピーチで観る人々に感動を与えます。誰かの言葉ではなく、自分の言葉が重要です。3つ目は、父と娘の本気の会話。年齢を経ると家族の間でも本気の会話は少なくなります。心の絆は感動を呼び起こします。4つ目は、・・・。見どころ満載です。
機微考察 ~監督は難病のALS~
この映画は、とてもリアリティがあります。原作は医師ではないものの神経科学の専門家であるリサ・ジェノヴァが2007年に書いた小説です。他にも自閉症やハンチントン病の小説も書いています。原作は読んでいませんが、原作の時からリアルな描写だったのかと想像します。
監督のリチャード・グラツァーは企画があがった当時、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を悪化させており、いろいろな人々のサポートを得て完成させたとあります。2015年3月に63歳で死去しました。アルツハイマー病は記憶を失う病気ですが、筋萎縮性側索硬化症は全身の筋力を失う病気です。時間とともに失われていく自分の機能にどう向き合うかというテーマは同じなのかもしれません。
監督の心の中を察すると切なくなりますが、この切なさがこの名映画を作り出したのかもしれません。